地理教科書 86ページ 4 ヨーロッパ統合がかかえる課題


学習課題 ヨーロッパでは、統合によってどのような課題が見られるのでしょうか。

格差をかかえるEU
ヨーロッパは、EUによる統合が進む一方で、多くの課題もかかえています。
EU加盟国の間の経済格差はその一つです。
加盟国の平均賃金は、2004年以降にEUに加盟した東ヨーロッパの国々と、西ヨーロッパの国々とで格差が目立ちます。
また、ギリシャやスペインとドイツなどとの間にも格差があります。
EUは、所得の低さの問題をかかえている国に対して、山間部などの地方の経済を活性化させて、格差を解消することを目指して補助金を支給しています。
また、加盟国の増加で、意見の調整に時間がかかることや、EUの権限が強くなって、加盟国それぞれの独自の意見が反映されにくくなることも心配されています。
格差を解消するための補助金の負担などをめぐって加盟国の間の対立も問題になっています。
2020年1月にはイギリスがEUを離脱しました。

ヨーロッパの産業の変化
イギリスやドイツなどの西ヨーロッパの国々では、1970年代以降に鉄鋼業などで、アメリカや日本に対する競争力が弱まり、各国の産業がおとろえましたが、1980年代以降は自動車産業やコンピューター、航空機、医薬品などのハイテク(先端技術)産業が大きく成長しました。
また、ロンドンやパリ、ミュンヘン、ミラノといった大都市にはさまざまな産業が集中しており、フランクフルトにはユーロを発行するヨーロッパ中央銀行が置かれ、EUの金融・経済の中心地として発展しています。

人々の自由な移動がかかえる課題
EUの地域内では、人々の移動が比較的自由なため、ドイツなどの賃金の高い国には、EUの東部や南部から来る外国人労働者も増えています。
ドイツでは、1960年ごろからトルコから多く労働者が移住し、集まって暮らす地区もできています。
フランスのように、植民地だったアルジェリアなどからの移民が多い国もあります。
いずれも多くの外国人が低い賃金で働いています。
また、EUの多くの国ではヨーロッパの外からの難民も受け入れています。
難民は仕事を探すことが難しく、失業者が増えたり、外国人の増加で、差別や排除をする主張や活動が生まれることもあります。
移民や難民への対応は加盟国間で異なる場合もあり、EUにとって深刻な問題になっています。
授業


では、今日の授業を始めます。
今日の学習課題は「ヨーロッパの統合によって、どのような課題が生まれているのか」です。
これまで統合のメリットを学んできましたが、今日は「問題点」に注目して考えていきます。

まず、写真 1 を見てください。
EUへの加盟を喜んでいる人々の様子です。
国どうしが協力することに期待していることがわかりますね。
では次に写真2を見てください。
「EUから離脱しよう」と訴えている人たちがいます。
同じヨーロッパなのに、なぜこのように意見が分かれるのでしょうか。
ここに今日の大切なポイントがあります。

次に、グラフ(EUへの拠出金と受取金)を見てください。
ドイツやフランスは多くのお金を出していて、ポーランドなどは多くのお金を受け取っています。
ここからどんなことが読み取れますか。
経済的に豊かな国は多く負担し、そうでない国は支援を受けていることがわかります。

では本文を読みながら考えていきます。
ヨーロッパでは統合が進む一方で、さまざまな課題が生まれています。
まず一つ目は経済格差です。
東ヨーロッパと西ヨーロッパでは賃金に大きな差があります。
また、同じ西ヨーロッパでも国によって差があります。
なぜこのような差が生まれるのでしょうか。
国によって産業の発達や経済力が違うため、収入にも差が出るからです。
その結果、EUの中で生活の差が広がってしまいます。

EUはこの問題を解決するために、所得の低い地域に補助金を出しています。
地方の産業を発展させることで、格差を小さくしようとしているのです。

しかし、ここで新たな問題が生まれます。
お金を多く出す国と、受け取る国の間で不満が生まれることです。
負担が大きい国は「なぜ自分たちばかり負担するのか」と感じます。
このことが対立につながるのです。

さらに、加盟国が増えたことも問題です。
国が増えると、それぞれ考え方や利益が違います。
そのため、意見をまとめるのに時間がかかるようになります。
また、EUの決定が強くなると、各国の意見が反映されにくくなるという不満も出てきます。

その結果、イギリスはEUから離脱しました。
これは、統合に対する不満が大きくなった一つの例です。

次に、地図 4(ヨーロッパ各国の平均賃金)を見てください。
西ヨーロッパの方が賃金が高く、東ヨーロッパは低いことがわかります。
この違いが、人の移動に影響します。

では地図 5 を見てください。
外国から多くの人がヨーロッパに来ていることがわかります。
なぜこのような移動が起こるのでしょうか。
賃金の高い国で働くために、人々が移動するからです。

本文にもあるように、EUでは人の移動が自由です。
そのため、東ヨーロッパや他の地域から西ヨーロッパへ働きに行く人が増えています。

ここで新たな問題が起こります。
外国人労働者が増えることで、仕事の競争が激しくなります。
また、文化や習慣の違いから、差別や対立が生まれることもあります。

さらに、難民の問題もあります。
ヨーロッパの外から来た人々が増えていますが、仕事を見つけることが難しい場合もあります。
その結果、失業や社会の不安が広がることがあります。

では最後にまとめます。
ヨーロッパの統合によって、経済格差や意見の対立、人の移動による問題が生まれました。
統合は便利な面もありますが、同時に課題も生み出しています。

確認問題です。
① ヨーロッパ統合によって生まれた経済的な課題を説明しなさい。
② 加盟国が増えることで起こる問題を説明しなさい。
③ 人の移動の自由によって生まれる問題を説明しなさい。

確認問題の答えを確認していきましょう。

① ヨーロッパ統合によって生まれた経済的な課題を説明しなさい。
答え:
EUの中で国によって経済力に差があるため、賃金や生活水準に経済格差が生まれることです。
また、所得の低い国を支援するために、豊かな国の負担が大きくなり、国どうしの対立が起こることも課題です。

② 加盟国が増えることで起こる問題を説明しなさい。
答え:
国ごとに考え方や利益が異なるため、意見をまとめるのに時間がかかるようになることです。
また、EUの決定が強くなることで、各国の意見が反映されにくくなり、不満が生まれることも問題です。

③ 人の移動の自由によって生まれる問題を説明しなさい。
答え:
賃金の高い国に多くの人が集まることで、仕事の競争が激しくなり、失業が増えることがあります。
さらに、外国人の増加によって文化や習慣の違いから対立や差別が生まれることも問題です。

このように、「なぜその問題が起こるのか」と「その結果どうなるのか」をセットで説明できるようにすることが大切です。

持続可能な社会に向けて(エネルギー・都市対策)

Q1. EU加盟国では、地球温暖化対策として、風力や太陽光などのエネルギーの利用が進んでいる。グラフ中のXにあてはまる、このようなエネルギーの総称を答えなさい(水力を除く)。
答え
再生可能エネルギー
【解説】ヨーロッパでは、環境への負担を減らすため、自然の力を利用して繰り返し使えるエネルギーの利用が進められている。風力や太陽光などは再生可能エネルギーと呼ばれ、二酸化炭素の排出を減らすことができるため、脱炭素社会の実現に重要である。

Q2. 再生可能エネルギーにあてはまるものを、次の中から2つ選びなさい。(原子力・風力・太陽光・火力)
答え
風力、太陽光
【解説】再生可能エネルギーとは、自然界に存在する力を利用するエネルギーであり、なくならずに使い続けることができる。風の力を使う風力や、太陽の光を利用する太陽光が代表例である。火力は化石燃料を使い、原子力も再生可能ではないため注意する。

Q3. 北海に面し、風力発電が盛んで再生可能エネルギーの割合が高い国を答えなさい。
答え
デンマーク
【解説】デンマークは北海に面し、沿岸や洋上での風力発電が発達している。そのため再生可能エネルギーの割合が高く、環境先進国として知られている。自然条件とエネルギー利用の関係を理解することが重要である。

Q4. ドイツなどで取り入れられている「パークアンドライド」は、都市のどのような問題の解決に役立つか、「~や~をおさえられる。」の形で答えなさい。
答え
大気汚染や交通渋滞をおさえられる。
【解説】パークアンドライドとは、郊外に車を止めて公共交通機関を利用する仕組みである。これにより車の使用が減り、都市部で問題となる大気汚染交通渋滞をおさえることができる。環境対策と都市対策の両方に関係する重要な取り組みである。

ヨーロッパ統合がかかえる課題

Q5. EUへの拠出額が多いドイツ・フランス・イタリアは、東ヨーロッパと西ヨーロッパのどちらに分類されるか答えなさい。
答え
西ヨーロッパ
【解説】これらの国々は経済力の高い西ヨーロッパに属しており、EUの中心的な役割を果たしている。西ヨーロッパと東ヨーロッパの違いは、経済水準や歴史とも関係しているため、地域の特徴として理解しておくことが大切である。

Q6. EU加盟国の増加やEUの権限強化によって、加盟国で生まれている心配を2つ答えなさい。
答え
意見の調整・決定に時間がかかること、加盟国の独自の意見が反映されにくくなること
【解説】EUでは多くの国が参加しているため、意見をまとめるのに時間がかかる。また、統合が進むほど各国の独自の意見が反映されにくくなるという問題もある。統合のメリットだけでなく、このようなデメリットも理解することが重要である。

Q7. ヨーロッパで失業者が増加したとき、差別や排除の対象となりやすい人々はどのような人か答えなさい。
答え
外国人
【解説】失業者が増えると、仕事をめぐる不安から外国人に対する差別や排除の動きが強まることがある。移民や難民も含めた外国人が対象となることが多く、社会問題となっている。

資料の活用(人口移動と経済格差)

Q8. I ヨーロッパに居住する外国人の出身国の分布図から、外国人が最も多く集まっている国を答えなさい。
答え
ドイツ
【解説】地図では矢印の数や太さが移動する人の多さを示している。最も多くの矢印が集まっている国はドイツであり、多くの外国人が集まる国であることがわかる。

Q9. ドイツに住む外国人の出身国として最も多い国を答えなさい。
答え
トルコ
【解説】地図の矢印の出発地を見ると、トルコからの移動が最も多いことがわかる。これは労働者として移住してきた歴史と関係している。

Q10. Ⅱ ヨーロッパ各国の平均賃金の資料から読み取れるEUの課題を、漢字4字で答えなさい。
答え
経済格差
【解説】西ヨーロッパと東ヨーロッパの間には賃金の差があり、このような差を経済格差という。EUではこの格差が大きな課題となっている。

Q11. 外国人の移動の特徴を、「平均賃金が( )国から( )国へ人々が移動している。」の形で答えなさい。
答え
低い国から高い国へ人々が移動している
【解説】人々はより高い収入や良い生活を求めて移動するため、平均賃金が低い国から高い国へ移動する傾向がある。地図の矢印の向きからも、この特徴を読み取ることができる。