「アイスプラネット」B

「アイスプラネット」B
■次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
翌日、学校に行く途中で、同じクラスの吉井と今村に会った。初めはどうしようかと思ったけど、馬も飲んでしまうでっかいアナコンダや、三メートルもあるナマズの話はおもしろかったし、氷の惑星の話も、本当だったらきれいだろうなと思ったから、つい吉井や今村に その話 ↩ 問題へ戻る をしてしまった。二人は僕の話が終わると顔を見合わせて、「ありえねえ。」と言った。
「そんな A ↩ 問題へ戻る 小学生でも信じないぞ。」
そう言われればそうだ。だから、部活が終わって大急ぎで家に帰ると、僕は真っ先にぐうちゃんの部屋に行って、「昨日の話、本当なら証拠の写真を見せろよ。」と無理に言った。ぐうちゃんは少し考えるしぐさをして、「そうだなあ。」と言って、目をパチパチさせている。
「これまで撮ってきた写真をそろそろちゃんと整理して紙焼きにしないと、と思っているんだ。そうしたらいろいろ見せてあげるよ。」
むっとした。そんな 言い逃れ ↩ 問題へ戻る をするぐうちゃんは好きではない。なんかぐうちゃんと僕の人生が全面的にからかわれた感じだ。吉井や今村に話をした分だけ損をした。いや失敗した。僕までほら吹きになってしまったのだ。
それから夏休みになってすぐ、ぐうちゃんはいつもより少し長い仕事に出た。関東地方の各地の川の測量をするということだった。僕は人生を全面的にからかわれて以来、あまりぐうちゃんの部屋に行かなくなっていたから、気にも留めなかった。
夏休みも終わり近く、いつものように週末に帰ってきた父と母が話しているのが、風呂場にいる僕の耳に入ってきた。
「僕たちは、都市のビルの中にいるからなかなか気がつかないけど、由起夫君は若い頃に世界のあちこちへ行っていたから、日本の中にいたら気がつかないことがいっぱい見えているんだろうね。なんだか羨ましいような気がするな。」
「あなたは何をのんきなことを言っているの。由起夫が、いつまでもああやって気ままな暮らしをしているのを見ていると、悠太に 悪い影響 ↩ 問題へ戻る が出ないか心配でしかたがないのよ。例えば極端な話、大人になっても毎日働かなくてもいいんだ、なんて思って勉強の意欲をなくしていったとしたら、どう責任取ってくれるのかしら。」
父が何かを答えているようだったが、はっきりとは聞こえなかった。ただ、僕のことでぐうちゃんが責められるのは少し違う気がする。そう思うと、電気の消えたぐうちゃんの部屋が急に B ↩ 問題へ戻る 感じられてきた。

それから、ぐうちゃんがまた僕の家に帰ってきたのは、九月の新学期が始まってしばらくした頃だった。顔と手足が真っ黒になっていて、パンツ一つになると、どうしても笑いたくなって困った。
残暑が厳しい日だった。久しぶりにぐうちゃんのほら話を聞きたいと思った。またからかわれてもいい。暑いから、今度は寒い国の話が聞きたい感じだった。
ところが、ぐうちゃんの話は、でっかい動物のでも、暑い国のでも、寒い国の話でもなかった。
「旅費がたまったから、これからまた外国をふらふらしてくるよ。」
ぐうちゃんは突然そう言った。「でもまあもう少し。」にはこんな意味があったのか。ぐうちゃんはいつもと変わらずに話を続けている。それなのに、 ぐうちゃんの声はどんどん遠くなっていく ↩ 問題へ戻る 。気がつくと、僕はぶっきらぼうに言っていた。
「勝手に行けばいいじゃないか。」 ↩ 問題へ戻る
ぐうちゃんは、そのときちょっと驚いた表情をした。何かを話しかけようとするぐうちゃんを残して僕は部屋を出た。
それ以来、僕は二度とぐうちゃんの部屋には行かなかった。母は、そんな僕たちに、あきれたり慌てたりしていたけれど、父は何も言わなかった。
十月の初めに、ぐうちゃんは小さな旅支度をして「いそうろう」を卒業してしまった。
出発の日、僕は、何て言っていいのかわからないままぐうちゃんの前に立っていた。ぐうちゃんは僕に近づき、あの表情で笑った。そして、何も言わずに僕の手を握りしめ、力の籠もった強い握手をして、大股で僕の家を出ていった。
(椎名誠「アイスプラネット」より)

(1) ___ 線①「その話」とは、どんな話か。文章中から三つ抜き出せ。[1]
答え
馬も飲んでしまうでっかいアナコンダ
三メートルもあるナマズ
氷の惑星
【解説】
「その話」は直前の内容を指します。吉井と今村に話した内容として、アナコンダ、ナマズ、氷の惑星の三つが挙げられています。

(2) Aにあてはまる言葉を文章中から三字で抜き出せ。[2]
答え
ほら話
【解説】
吉井と今村は、ぐうちゃんの話を信じられない話だと受け取っています。文章中では「ほら話」という言葉で表されています。

(3) ___ 線②「言い逃れ」について、次の各問いに答えよ。[3]
ⓐ 「僕」は具体的には何を「言い逃れ」だと思ったか。文章中の言葉を使って答えよ。
答え
これまで撮ってきた写真をそろそろちゃんと整理して紙焼きにしないと、と思っているんだ。そうしたらいろいろ見せてあげるよ。
【解説】
僕は、ぐうちゃんが証拠の写真をすぐに見せず、後で見せるように言ったことを「言い逃れ」だと感じています。

ⓑ なぜ「僕」はⓐの答えを「言い逃れ」だと思ったか。理由として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア ⓐの答えは単なる時間かせぎで、証拠になる写真はこれから撮るつもりだと思ったから。
イ ⓐの答えは写真を見せないで済ますための単なる口実で、本当は証拠の写真など存在しないと思ったから。
ウ ⓐの答えは写真を見せないで済ますための単なる口実で、本当は証拠の写真を誰にも見せる気がないと思ったから。
工 ⓐの答えは単なる時間かせぎで、証拠になる写真は既に用意されていると思ったから。
答え

【解説】
僕は、ぐうちゃんが本当は証拠の写真を持っていないのに、写真を整理するという口実で逃げていると感じています。

(4) ___ 線③「悪い影響」とは、具体的にどのようなことか。文章中の言葉を使って答えよ。[5]
答え
大人になっても毎日働かなくてもいいんだ、なんて思って勉強の意欲をなくしていった
【解説】
母は、ぐうちゃんの自由な生き方を見て、僕が勉強しなくてもよいと思ってしまうことを心配しています。

(5) Bにあてはまる言葉として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。[6]
ア 楽しく
イ いまいましく
ウ 寂しく
エ 明るく
答え

【解説】
ぐうちゃんがいない部屋を見て、僕はさびしさを感じています。したがって「寂しく」が最も自然です。

(6) ___ 線④「ぐうちゃんの声はどんどん遠くなっていく」とあるが、この時の「僕」の気持ちとして、最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。[7]
ア ぐうちゃんの話が頭に入ってこないほどにショックを受けている。
イ ぐうちゃんが「いそうろう」を卒業することに喜びを感じている。
ウ ぐうちゃんの話があまりに現実離れをしていることにあきれている。
エ 両親がぐうちゃんを外国に追い出したのではないかといぶかしんでいる。
答え

【解説】
ぐうちゃんが外国へ行くと知り、僕は強いショックを受けています。そのため、話の内容が頭に入らず、声が遠く感じられています。

(7) ___ 線⑤「勝手に行けばいいじゃないか」とあるが、このときの「僕」の心情として適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。[8]
ア 「僕」を気にせず外国に行くといったぐうちゃんのことが腹立たしい。
イ 家族のことを気にせずに自由に行動できるぐうちゃんのことがねたましい。
ウ 突然海外に行くと言い出したぐうちゃんと二度と会えないと思うと悲しい。
エ ぐうちゃんからからかわれることがないということを考えるとさびしい。
答え

【解説】
僕は本当はぐうちゃんが好きですが、突然外国へ行くと言われて動揺し、腹立たしい気持ちをぶっきらぼうな言葉で表しています。