「アイスプラネット」C
■ 次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
夏休みも終わり近く、いつものように週末に帰ってきた父と母が話しているのが、風呂場にいる僕の耳にも入ってきた。
「僕たちは、都市のビルの中にいるからなかなか気がつかないけど、由起夫君は若い頃に世界のあちこちへ行っていたから、日本の中にいたら気がつかないことがいっぱい見えているんだろうね。なんだか A ↩ 問題へ戻る ような気がするな。」
母は、珍しくビールでも飲んだらしく、いつもよりもっと強烈に雄弁になっている。
「あなたは何をのんきなことを言っているの。由起夫が、いつまでもああやって気ままな暮らしをしているのを見ていると、悠太に悪い影響が出ないか心配でしょ。例えば極端な話、大人になっても毎日働かなくてもいいんだ、なんて思って勉強の意欲をなくしていったとしたら、どう責任取ってくれるのかしら。」
父が何かを答えているようだったが、はっきりとは聞こえなかった。ただ、僕のことでぐうちゃんが責められるのは少し違う気がする。そう思うと、電気の消えたぐうちゃんの部屋が急に寂しく感じられてきた。
それから、ぐうちゃんがまた僕の家に帰ってきたのは、九月の新学期が始まってしばらくした頃だった。顔と手足が真っ黒になっていて、 ①パンツ一つになると、どうしても笑いたくなって困った ↩ 問題へ戻る 。
残暑が厳しい日だった。久しぶりにぐうちゃんのほら話を聞きたいと思った。またからかわれてもいい。暑いから、今度は寒い国の話が聞きたい感じだ。
ところが、ぐうちゃんの話は、でっかい動物のでも、暑い国のでも、寒い国の話でもなかった。
「旅費がたまったから、これからまた外国をふらふらしてくるよ。」
ぐうちゃんは突然そう言った。「でもまあもう少し」にはこんな意味があったのか。ぐうちゃんはいつもと変わらずに話を続けている。それなのに、ぐうちゃんの声はどんどん遠くなっていく。気がつくと、僕は ②ぶっきらぼうに ↩ 問題へ戻る 言っていた。
「勝手に行けばいいじゃないか。」
ぐうちゃんは、そのときちょっと驚いた表情をした。何かを話しかけようとするぐうちゃんを残して僕は部屋を出た。
それ以来、僕は二度とぐうちゃんの部屋には行かなかった。母は、そんな僕たちに、あきれたり慌てたりしていたけれど、父は何も言わなかった。
十月の初めに、ぐうちゃんは小さな旅支度をして「 B ↩ 問題へ戻る 」を卒業してしまった。
出発の日、僕は、何て言っていいのかわからないままぐうちゃんの前に立っていた。ぐうちゃんは僕に近づき、あの表情で笑った。そして、何も言わずに僕の手を握りしめ、力の籠もった強い握手をして、大股で僕の家を出ていった。
「ほらばっかりだったじゃないか。」
「いそうろう」がいなくなってしまった部屋の前で、僕はそう思った。
ぐうちゃんから外国のちょっとしゃれた封筒で僕に手紙が届いたのは、それから四か月ぐらいたってからだった。珍しい切手がいっぱい貼ってあった。
「あのときの話の続きだ。以前若い頃に、北極まで行ってイヌイットと暮らしていたことがあるんだ。そのとき C ↩ 問題へ戻る を見に行こう、と友達になったイヌイットに言われてカヌーで北極海に出た。
アイスプラネット。わかるだろう。氷の惑星だ。それが北極海に本当に浮かんでいたんだ。きれいだったよ。厳しい自然に生きている人だけが目にできる、もう一つの宇宙なんだな、と思ったよ。地上十階建てのビルぐらいの高さなんだ。そして、海の中の氷は、もっともっとでっかい。悠太にもいつか見てほしい。若いうちに勉強をたくさんして、いっぱい本を読んで、いつも ③『不思議アタマ』 ↩ 問題へ戻る になって世界に出かけていくと、おもしろいぞ。世界は、楽しいこと、悲しいこと、美しいことで満ち満ちている。誰もが一生懸命生きている。それこそありえないほどだ。それを自分の目で確かめてほしいんだ。」
手紙には、ぐうちゃんの力強い文字がぎっしり詰まっていた。
(1) A にあてはまる言葉として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「1」
ア 惜たらしい
イ 馬鹿らしい
ウ 羨ましい
エ 図々しい
(2) ___ 線①「パンツ一つになると、どうしても笑いたくなって困った」とあるが、パンツ一つになった「ぐうちゃん」のどのようなところが「僕」には面白く感じられたのか。最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「2」
ア 全身がくまなく真っ黒に日焼けしているところ。
イ 日焼けしている部分としていない部分とが白黒で分かれているところ。
ウ 体の中心から手足にかけて、肌が少しずつ日焼けしているところ。
エ 日焼けしている部分としていない部分がまばらに分かれているところ。
(3) ___ 線②「ぶっきらぼうに」の意味として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「3」
ア 無愛想に
イ 無遠慮に
ウ 無表情に
エ 不作法に
(4) B にあてはまる言葉を文章中から抜き出せ。「4」
(5) C にあてはまる言葉を文章中から抜き出せ。「5」
(6) ___ 線③「不思議アタマ」とはどのような頭のことか。最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「6」
ア 人と違ったことを考える頭
イ 知的好奇心のあふれる頭
ウ 物事の理解がはやい頭
エ 常に混乱している頭
夏休みも終わり近く、いつものように週末に帰ってきた父と母が話しているのが、風呂場にいる僕の耳にも入ってきた。
「僕たちは、都市のビルの中にいるからなかなか気がつかないけど、由起夫君は若い頃に世界のあちこちへ行っていたから、日本の中にいたら気がつかないことがいっぱい見えているんだろうね。なんだか A ↩ 問題へ戻る ような気がするな。」
母は、珍しくビールでも飲んだらしく、いつもよりもっと強烈に雄弁になっている。
「あなたは何をのんきなことを言っているの。由起夫が、いつまでもああやって気ままな暮らしをしているのを見ていると、悠太に悪い影響が出ないか心配でしょ。例えば極端な話、大人になっても毎日働かなくてもいいんだ、なんて思って勉強の意欲をなくしていったとしたら、どう責任取ってくれるのかしら。」
父が何かを答えているようだったが、はっきりとは聞こえなかった。ただ、僕のことでぐうちゃんが責められるのは少し違う気がする。そう思うと、電気の消えたぐうちゃんの部屋が急に寂しく感じられてきた。
それから、ぐうちゃんがまた僕の家に帰ってきたのは、九月の新学期が始まってしばらくした頃だった。顔と手足が真っ黒になっていて、 ①パンツ一つになると、どうしても笑いたくなって困った ↩ 問題へ戻る 。
残暑が厳しい日だった。久しぶりにぐうちゃんのほら話を聞きたいと思った。またからかわれてもいい。暑いから、今度は寒い国の話が聞きたい感じだ。
ところが、ぐうちゃんの話は、でっかい動物のでも、暑い国のでも、寒い国の話でもなかった。
「旅費がたまったから、これからまた外国をふらふらしてくるよ。」
ぐうちゃんは突然そう言った。「でもまあもう少し」にはこんな意味があったのか。ぐうちゃんはいつもと変わらずに話を続けている。それなのに、ぐうちゃんの声はどんどん遠くなっていく。気がつくと、僕は ②ぶっきらぼうに ↩ 問題へ戻る 言っていた。
「勝手に行けばいいじゃないか。」
ぐうちゃんは、そのときちょっと驚いた表情をした。何かを話しかけようとするぐうちゃんを残して僕は部屋を出た。
それ以来、僕は二度とぐうちゃんの部屋には行かなかった。母は、そんな僕たちに、あきれたり慌てたりしていたけれど、父は何も言わなかった。
十月の初めに、ぐうちゃんは小さな旅支度をして「 B ↩ 問題へ戻る 」を卒業してしまった。
出発の日、僕は、何て言っていいのかわからないままぐうちゃんの前に立っていた。ぐうちゃんは僕に近づき、あの表情で笑った。そして、何も言わずに僕の手を握りしめ、力の籠もった強い握手をして、大股で僕の家を出ていった。
「ほらばっかりだったじゃないか。」
「いそうろう」がいなくなってしまった部屋の前で、僕はそう思った。
ぐうちゃんから外国のちょっとしゃれた封筒で僕に手紙が届いたのは、それから四か月ぐらいたってからだった。珍しい切手がいっぱい貼ってあった。
「あのときの話の続きだ。以前若い頃に、北極まで行ってイヌイットと暮らしていたことがあるんだ。そのとき C ↩ 問題へ戻る を見に行こう、と友達になったイヌイットに言われてカヌーで北極海に出た。
アイスプラネット。わかるだろう。氷の惑星だ。それが北極海に本当に浮かんでいたんだ。きれいだったよ。厳しい自然に生きている人だけが目にできる、もう一つの宇宙なんだな、と思ったよ。地上十階建てのビルぐらいの高さなんだ。そして、海の中の氷は、もっともっとでっかい。悠太にもいつか見てほしい。若いうちに勉強をたくさんして、いっぱい本を読んで、いつも ③『不思議アタマ』 ↩ 問題へ戻る になって世界に出かけていくと、おもしろいぞ。世界は、楽しいこと、悲しいこと、美しいことで満ち満ちている。誰もが一生懸命生きている。それこそありえないほどだ。それを自分の目で確かめてほしいんだ。」
手紙には、ぐうちゃんの力強い文字がぎっしり詰まっていた。
(椎名誠「アイスプラネット」より)
(1) A にあてはまる言葉として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「1」
ア 惜たらしい
イ 馬鹿らしい
ウ 羨ましい
エ 図々しい
答え
ウ
【解説】
父は、世界を旅したぐうちゃんに対して「うらやましい」という気持ちを持っています。世界を見てきたからこそ、日本では気づけないことが見えているのだろうと考えているためです。
【解説】
父は、世界を旅したぐうちゃんに対して「うらやましい」という気持ちを持っています。世界を見てきたからこそ、日本では気づけないことが見えているのだろうと考えているためです。
(2) ___ 線①「パンツ一つになると、どうしても笑いたくなって困った」とあるが、パンツ一つになった「ぐうちゃん」のどのようなところが「僕」には面白く感じられたのか。最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「2」
ア 全身がくまなく真っ黒に日焼けしているところ。
イ 日焼けしている部分としていない部分とが白黒で分かれているところ。
ウ 体の中心から手足にかけて、肌が少しずつ日焼けしているところ。
エ 日焼けしている部分としていない部分がまばらに分かれているところ。
答え
イ
【解説】
顔や手足だけが真っ黒に日焼けし、服で隠れていた部分は白いままだったので、その白黒の差が「僕」にはおもしろく感じられたのです。
【解説】
顔や手足だけが真っ黒に日焼けし、服で隠れていた部分は白いままだったので、その白黒の差が「僕」にはおもしろく感じられたのです。
(3) ___ 線②「ぶっきらぼうに」の意味として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「3」
ア 無愛想に
イ 無遠慮に
ウ 無表情に
エ 不作法に
答え
ア
【解説】
「ぶっきらぼう」は、愛想がなくそっけない様子を表す言葉です。僕は寂しさや怒りを素直に言えず、冷たい言い方になってしまいました。
【解説】
「ぶっきらぼう」は、愛想がなくそっけない様子を表す言葉です。僕は寂しさや怒りを素直に言えず、冷たい言い方になってしまいました。
(4) B にあてはまる言葉を文章中から抜き出せ。「4」
答え
いそうろう
【解説】
本文の「『いそうろう』がいなくなってしまった部屋」という表現から、「B」に入る言葉は「いそうろう」だとわかります。
【解説】
本文の「『いそうろう』がいなくなってしまった部屋」という表現から、「B」に入る言葉は「いそうろう」だとわかります。
(5) C にあてはまる言葉を文章中から抜き出せ。「5」
答え
アイスプラネット
【解説】
あとに「氷の惑星だ」と説明されていることから、「C」に入る言葉は「アイスプラネット」だとわかります。
【解説】
あとに「氷の惑星だ」と説明されていることから、「C」に入る言葉は「アイスプラネット」だとわかります。
(6) ___ 線③「不思議アタマ」とはどのような頭のことか。最も適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。「6」
ア 人と違ったことを考える頭
イ 知的好奇心のあふれる頭
ウ 物事の理解がはやい頭
エ 常に混乱している頭
答え
イ
【解説】
「勉強をたくさんして、いっぱい本を読んで」とあることから、さまざまなことに興味を持ち、知ろうとする心を持つ頭という意味だとわかります。
【解説】
「勉強をたくさんして、いっぱい本を読んで」とあることから、さまざまなことに興味を持ち、知ろうとする心を持つ頭という意味だとわかります。
